大判例

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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)374号 判決

公示送達は通常の送達によることができない場合に裁判所の掲示場に出す掲示を以てこれに代える送達方法であるから、送達を受けた者がその内容を知らないことがあるのは当然予想されるところであり、たとえ当事者がそれを知らないときでもなお送達があつたものとして所定の効果を付与しようとする制度の趣旨から考えるときは、判決の公示送達を知らなかつたため控訴期間を遵守することができなかつたという一事だけでは、常に当然に控訴追完事由があるとは解することができない。しかしながら公示送達の申立が当事者の予想を超えるものであり、当事者としては、その住所又は連絡先を明らかにしもし相手方が通常の調査方法を講ずれば容易にその住所を知ることができるような措置を講じているのに、相手方において通常期待される調査を行わず直ちに公示送達の申立をなしたため当事者が公示送達による送達を知らなかつたような場合には、その当事者はこれを知らなかつたことにつき責がないものと解すべきである、そして当事者が公示送達による判決の送達があつたことを知らなかつたことにつきその責がなく、そのため控訴期間を遵守できなかつたときは、その責に帰すべきでない控訴期間の不遵守として控訴の追完を許すべきである。そこで、成立に争いのない甲第一号証の一、同第八号証の一、二、同第十号証、同第十四及び第十五号証、乙第一、二号証、官署作成部分の成立については争いなくそのほかの部分については当審証人浅沼澄次の証言により成立を認める乙第三号証並びに当審証人浅沼澄次の証言のほか本件訴訟記録に編綴された控訴人の訴訟委任状(記録六十八丁)その他弁論の全趣旨をあわせ考えると、本件第一審被告謝永は、昭和三十三年三月二十七日、本邦に入国し、東京都中央区日本橋人形町二丁目五番地を居住地と定め、同年八月十八日、日本国の住所を引払い、ベトナム国サイゴン市に向けて出国したものであるが、この間、同年七月十七日、本件土地を取得し、同日その取得登記を了し、その後、人を介して右土地の管理を弁護士浅沼澄次に委任し、そのときから、同弁護士においてこれを管理しており、同人は昭和三十八年十月頃被控訴人が右地上で建築工事に着手したことを知り、被控訴人に対しこの土地がベトナム国在住の謝永の所有地でその代理人である浅沼澄次の管理するところであることを説明し、納得の上工事をやめさせ、地上に「土地所有権者謝永、右代理人東京都中央区銀座六ノ四交詢社ビル六〇四号弁護士浅沼澄次」と表示し何人もこれに立入ることを禁ずる旨記載した木の立札を立てておいたこと、ところが昭和三十九年七月被控訴人は謝永を相手方として仮処分の申請をしたので、その時も弁護士浅沼澄次が被控訴人側と折衝し、謝永のサイゴン市に在住することが明らかにされ右被控訴人の仮処分申請は却下されたこと、そしてその後謝永にも浅沼澄次にもなんらの連絡もなく同年十二月二十一日突如被控訴人より本件訴訟が提起されその訴状には被告謝永の住所として前記登記簿上の住所である東京都中央区日本橋人形町二丁目五番地とだけ表示してあり、訴状の郵便配達が不能となるや直ちに被控訴人訴訟代理人より公示送達の申立がなされ、訴状、口頭弁論期日呼出状、第一審判決等すべての送達は公示送達によりなされたため、原判決のあつたことを謝永において知るに由なく、たまたま昭和四十一年一月十日頃、本件土地につき訴外森下茂が訴外新東建設株式会社に土盛り工事をさせていることが弁護士浅沼澄次の知るところとなり、同弁護士は同月十四日、右両名を不動産侵奪罪で告訴した際、その捜査にあたつていた赤坂警察署の係官から、本件土地につき被控訴人に借地権があるという判決があると知らされ、同月十九日、東京地方裁判所より判決謄本の交付を受けてはじめてその内容を知り、直ちに、その写を作成し、ベトナム共和国サイゴン市ハムサイ、ダイロ一一五に居住する謝永に対し、控訴の意思の有無及び控訴の意思があるときは同封の委任状に署名押印して返送されたい旨を書面にして、右判決の写と訴訟委任状用紙を同封し、発送したところ、同年二月二十一、二日頃になつて謝永より訴訟委任状とともに原判決に対する控訴を委任して来たので、同月二十四日本件控訴を提起した事実を認めることができる。右の事実によると、謝永は本件公示送達による判決がなされたことを控訴期間経過後原判決の写をサイゴン市において受け取り、はじめて知つたものである。

そして前記のような事情からすれば、少くとも本件土地に関する限り謝永が利害関係人から連絡を受ける方途は講じられてあり、特に被控訴人が右土地に関する本件訴訟につき謝永又はその代理人浅沼澄次と連絡を試みることなく公示送達の方法により訴状以下の訴訟書類を経た上一審判決の公示送達を受けるようなことは謝永において通常予想できなかつたことであり、これを知らなかつたことについては同人に責がないものというべく、従つて同人がこれを知らないため控訴期間を遵守できなかつたことについても、その責に帰すべきでない事由があるものというべきである。

(小沢 岡田 館)

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